2022年10月 新規ミニ10台と平家・楽サイズ各5台の琵琶パーツを発注

2022年4月 楽琵琶サイズと平家琵琶サイズの試作決意

厚みを測る道具と栗端材

4年ほど前、草津の琵琶工房・尾崎氏の意思を継いで譲り受けた巨大な琵琶用の木材が、長いあいだ家の裏に立てかけてあり、何とかこの10台分だけでも、楽器へと生まれ変わらせる機会を探していました。私ごとの職場の関係や、まとまった資金、発注ロットの問題など、なかなかかかれなかった琵琶製作ですが、楽琵琶サイズ、平家琵琶サイズともに「時間はかかってもいいから、作ってみて欲しい」というご希望が各5台ずつ集まったので、2022年の4月から、ようやく動き始めました。

まだ先の見えないなかでの試作製作というスタンスはそのままでしたが、ご注文のあった方へのご連絡や、家裏にある木材の状態を写真に納めたり、木材の寸法と家にある平家サイズの琵琶、楽琵琶サイズの琵琶を計測して、およそのモデルサイズをメモしたり、何かしら前に進めたい気持ちがありました。

2022年初夏〜夏〜秋 楽琵琶サイズと平家琵琶サイズの設計思案

ミニサイズの琵琶については20台製作した実績があります。NCルータで加工が可能なように各パーツのデザイン形状は、無駄がなくスタイリッシュに仕上がっていて、槌田木工所さんの意匠のセンスが光ります。見比べて、大型になったときの絃のテンションのかかり具合などを想像して、張力に耐え得る丈夫さが保てるかなど、大型琵琶のサイズや厚みを考慮したデザインも思案していましたが、実際のところ、作ってみないとわからないことばかりなので、何もない中からの作業で、日にちばっかりが過ぎて、実際にこれという作業にはかかれずにいました。

平家サイズは琵琶を始めた当初から愛用していた「不飽月」を見本に、楽琵琶サイズは、岩倉の一絃琴のお師匠さんの夫がコレクションされていたものをお譲りいただいた楽琵琶(銘「岩倉」とさせていただきます)を見本に、それぞれ、全体的なサイズを決め、あとはパーツそれぞれの細かな設計を、手描きでメモして、それをイラストレーターで図面におこしていくことにしました。

社長!お世話になります

2022年9月 亀岡槌田木工所へ加工を依頼

ミニ琵琶(しのびわ)のパーツ製作を担当してくれている亀岡の槌田木工所に9月中旬に電話をしたところ、10月の方が都合が良いとのことで、10月11日(火)に平家サイズ、楽琵琶サイズの相談に伺えることになりました。しかし、10月10日(月祝)の時点で、こちら側の設計段階の調整がまだついておらず、お電話して、もう一週間伸ばしてもらい18日(火)に3種類の大きさの琵琶パーツの発注と、胴の木材を届けることになりました。

2022年10月18日 災難のなか、尾崎工房か預かった木材を亀岡へ

16日(日)に家の裏に2年間置いてあった10台分の胴板を旦那さんにも手伝ってもらって玄関に運び出しておこうと思っていたのですが、突然その週掛かりの12日(水)の朝、職場に医療機関から電話がかかり、旦那さんが自転車の衝突事故で大腿骨骨折で手術&入院となり、琵琶の製作どころではない事態になってしまいました。入院3ヶ月とのことでコロナ禍は会えず、病院へは週2回ほどのペースで通い、物品の受け渡しのみ許可されました。主人の突然の入院で、面食らいましたが、16日(日)には予定通り、10台分の花梨、楓、桜など胴材と、鶴首と覆手用の紫檀材、その他琵琶型にカットしていない木の巨大な塊などを、なんとか一人で、玄関側の中庭スペースに運んで準備し、17日(月)、各サイズのおおよその設計数値を夜中までかかって図面に仕上げ、18日(火)に軽自動車の荷台を倒して積み込み、亀岡へ向けて出発しました。

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楽琵琶サイズ5面と平家サイズ3面分の胴材は、槌田さんのNCルータでも削れる厚みでしたので預かっていただけましたが、残りの平家サイズ胴用の桂材2面は少し厚すぎたので、いったん持ち帰ることとなりました。

2022年10月18日 亀岡帰路、ミニ琵琶胴材「古碁盤」の調達と桂材厚み調整

亀岡はリサイクルショップが多いのも楽しいところで、帰りにはミニ琵琶の胴にぴったりな、しっかりした碁盤を3基見つけ仕入れました。昨年、関東へ旅した際にも一基購入していたものがあり、これらはミニ琵琶10台の胴にする古碁盤材です。

そこで、帰りの道中、五条通りの阪急電車高架の手前、前回のミニ琵琶製作の際に栗材を調達した三伽和木材さんに立ち寄りました。碁盤は1辺が450mmほどあり、縦型の帯鋸でスライスするには390mmが限度とのことで、これまた持ち帰ることになりました。槌田木工所から持ち帰った桂材2面については、スライスでなく指定の厚さに削ぎ落とすのであれば可能ということで、預けて帰ることになりました。

2022年10月18日 ウッドショップ三伽和さんでミニ琵琶腹板「栗木材」品定め

あと三伽和木材さんにご依頼する今回の一番の目的が、栗材の調達です。平家サイズ、楽琵琶サイズの各5面分とミニ10面分の腹板(表側)を用意して、規定の厚みにし、NCルータ加工用の粗型材にしなければなりません。まずは栗材の品定め。表のお得コーナーに立てかけてあったのは相当大きな栗材で、ミニ琵琶は相当数取れそうでしたが、少し割れがあったため断念。担当の斉藤さんに他の物を見せてもらえるよう奥へ案内していただきました。

背丈の倍ほどの高さに積まれた木材の迷路のようなところを通って、今回に適しそうな、年数の経っている厚みのある栗材の巨大な割木を見せてもらいました。潮風が吹く岩礁に曲がって伸びる松のような、そんな生え方をしていたであろう、根の方から大きく歪曲した年輪が特徴の立派な栗の大きな板材が6枚ほど積まれていました。琵琶の胴にすれば、とても良い杢目や表情になると想像できました。その積み重なった板材を前にすると、不思議と生えていた頃の力強さや粘り強さがじんわりと感じられるようで、琵琶の胴として音を奏でるにふさわしい木材だと、実物を見て確信できました。これらの木材を使って、次回亀岡に行くまでに20台分の腹板用粗型材を準備しておいてもらうことになりました。

2022年10月26日 槌田木工所より覆手4つの絃穴、間隔の相談

翌週の10月29日(水)11時過ぎ、槌田さんより、電話連絡があり「設計図のうち覆手の絃が通る穴の間隔を決めて欲しい」とのことでした。その夜、我が家の「不飽月(あきづき)」「岩倉(いわくら)」など、各大きさごとの形状のモデルにした琵琶の糸穴間の寸法をはかり、槌田さんに最終の設計案をメールしました。

こちらからの要望の寸法はお知らせすることができても、結局のところ、NCルーター加工の設計図作りは、槌田木工所頼みです。工業的なデザイン設計を一からお願いすることになり、試行錯誤に時間を要す作業になります。「納期のある仕事が詰まっている時には、なかなか進まないかもしれません。気長にお待ちいただきたいです」と社長がおっしゃいました。

2022年11月1日 碁盤スライスに四苦八苦、三カ所のアテ外れ収穫ナシ。。。

ミニ琵琶用の碁盤のスライスがなかなか手強い課題でした。当初はアテが二つありました。一つは北山鷹峯の奥、京北へ行く手前にある長谷川というハンバーグの美味しい山小屋ロッジ風のレストランです。オーナーは材木加工が趣味で、店のテーブルは全て自前で切り出しているそうなのです。「木材は相当大きなものでも加工可能です」とおっしゃっていただいていたこと。もう一つは雄琴にある船路工務店さん。前回のミニ琵琶製作の際、製材後保管中に反ってきた胴材を、まっすぐな材に削ぎ落としてくださったところです。現在の社長のお父様が工場に健在だった頃、たまたま飛び込みで訪ね「ミニ琵琶を作ろうと思っていて」と加工をご相談したところ「家に壊れた薩摩琵琶が転がっているので、直して弾いてみたいんや、直るか??」と偶然にもその工務店の2階に壊れた琵琶があり、見せていただき「これならなおります」と持ち帰って修繕したことがきっかけで、プレーナー加工を何度か無償でしてくださっていました。

11月1日火曜日、最初はハンバーグレストランの長谷川に行こうと思っていましたが、ネットで調べたところあいにくの休業日で断念。船路工務店は久しぶりだったので遠慮していたのですが、思い切って電話をかけたところ、前に対応していただいたお父様が「息子に譲ったので聞いてみて」と連絡先を教えていただきました。加工できるかたずねたところ、息子さんも心やすく引き受けてくださり、当日でしたが、工場には弟さんが居られるとのことで、その日の3時半ころ向かいました。碁盤をスライスできるか見てもらうと、結局のところ三伽和さんと同種の機械で、450mmは無理と判明。ここも断念する他ありませんでした。夕刻でしたが、もう一軒、以前くぬぎの生丸太を製材してもらった木材店が近くの仰木地区でしたので碁盤を持ち込み、スライスを交渉しましたが「硬い木は、刃がかけても困るし、今日はもう4時すぎでうちは5時までだから、どうしても他にないようなら、違う日に連絡して来てください」ということで、この日成果はゼロでした。

2022年11月4日 大型琵琶用の型紙依頼でピンときた件

碁盤の問題がここまで引きずるとは思っていませんでした。その週末11月4日(金)三伽和さんから連絡がありました。「おおよそでいいので、それぞれの大きさの型紙を作って欲しい」とのことでした。モデルとしている琵琶を、障子和紙に腹板を下にして置き、鉛筆で大きめに枠取りを描き、切り抜いて型紙を作りました。ミニ琵琶の型紙を碁盤に当ててみたところ、木目に対して斜め置きにはなりますが、意外と小さな寸法でした。実際に鉛筆で印をつけると、だいたい360〜370mmあれば枠取り可能なようでした。そこで船路工務店で聞いた加工方を思い出して、ピンと来ました。前回は槌田木工所さんが、下請けの製材所に碁盤のスライスを外注、胴を製作されています。おそらく450mmの碁盤をまず平置きで390mmにカットし、それを立てて3枚なら3枚、4枚なら4枚にスライスされたと推測できます。前回の製材所さんが無理なく加工できる、最大の大きさに設定してくれていたのです。

2022年11月8日 碁盤のスライス問題解決!三伽和さんへGo!

そうと判れば、この加工は三伽和木材さんにお願いできます。3種類の大きさの型紙と碁盤4台を積んで、11月8日(火)の午後に木材店へ伺いました。その日は4時までに旦那さんの入院先に持っていくものがあり、病院前停車時の乗り込み要員として父に同乗してもらっていました。到着してしばらくは担当の斉藤さんがお電話中で、先に、碁盤を車から下ろし場内に搬入しました。真ん中のスペースには、楽琵琶サイズ5枚、平家琵琶サイズ5枚、ミニ琵琶サイズ10枚の腹板を切り出すための栗材がいくつか置かれていました。

電話を終えて、来てくれた斉藤さんに、3種類の型紙をお渡しすると、予定している木材に型紙を当てながら、カットしようとしている心づもりの詳細を教えてくださいました。厚みのことや、それぞれの大きさにあった切り出し方を決めるのは、木材の性質をよくわかった専門家のご意見が重要になってきます。斉藤さんは頼れる専門家として、テキパキ提案してくださいました。

余分に渡していたセンダンの板材もミニ琵琶用に厚みを加工してくださることになり、切り出して準備してくださった一式を翌週11月15日(火)に引き取りに行くことになりました。そのまま五条通を西走して亀岡へ持ち込む予定も伝え、なんとか旦那さんに荷物を届ける時間にも間に合って、なかなかの充実した日となりました。

2022年11月15日 琵琶材料引き取りの日 予期せぬ車のトラブル!

11月15日(火)も、16時までに旦那さんの病院へ届け物のノルマのある中、午前中は三伽和へ向かいました。栗材とスライス碁盤と桂材を引き取り、そのままお昼前後に亀岡へ向かい戻る予定でした。

10時半頃家を出発して、いつもなら、細い抜け道を五条トンネルの前にワープする道筋を通るのですが、すっかり曲がるのを失念していました。大石道の五条通信号待ちの列に並んだ時、少し変なエンジン音が聞こえた気もしましたが、特に気にも留めず、五条通りを右折しました。ちょうど五条坂に差し掛かる坂道途中の交差点でしたので、アクセルを踏みましたが、その直後、エンジンがカタカタと異常音を発し、メータの横のエンジントラブルのランプが点灯しました。

この先、重たい荷物も積まないといけないので、すぐさまハザードをつけて、その隣の信号のところでUターンし、そこから100mほどの行きつけのガソリンスタンドに駆け込みました。事情を説明してエンジンルームを見てもらったところ、6本あるエンジンのうちプラグ1本が切れているとのことでした。「今から、重い荷物も載せて亀岡に行かねばならず、代車をお借りすることはできますか」と聞くと「今、空いていますし、そのまま明後日までならお貸しできます」とのことで、時間も急いでいましたので、すぐに代車を借りて三伽和木材に向かいました。

栗腹板材小10平5楽5面分

予定より30分ほど遅れましたが、なんとか昼過ぎには到着、加工しやすい寸法に粗切りした栗材と、厚みを整えスライスした碁盤、平家サイズ用に厚みを調整した桂材を見せていただきました。皆合わせると、結構な総重量になりましたが、奇跡的に自家用の軽自動車よりパワーのある替車に、木材一式を載せて、引き続き、亀岡へと向かいました。道中も異常なく、無事に平家サイズ5台、楽琵琶サイズ5台、ミニサイズ10台に使う腹板用の栗材20枚と、大型胴用の桂材2枚、ミニ琵琶の胴用の碁盤スライス材10枚を、槌田木工所に引き渡すことができました。

古碁盤スライス黒白

2022年11月15日 NCルーター製作依頼完了、琵琶神の思し召し!?

前回2022年10月18日に、総ての木材を積んで亀岡に向かった際、かなりの無理をさせていたマイ軽自動車(Zest Spark)は、そういえば、サスペンションのきしみが気になり始め、なんだかガタガタしてきていました。今回、五条通りから亀岡へ向かう道中を間違えてしまったこと、そこでエンジンが調子悪くなったこと、そのお陰で材木を積んでも良いパワーのある替車が借りられたこと、これらみんなが、なんとも不幸中の幸い、もしくは琵琶神さんの思し召しだったのかもと、本当に自然に思えたできごとでした。

平家サイズ胴3面

何はともあれ、我が家に3年以上眠っていた、草津の故尾崎氏から託された、琵琶のための木材が、NCルータ加工の業者さんに届けることができ、改めて実際に製作依頼ができたことが感慨深く、嬉しく思いました。